ある熱心なお檀家さんから、毎日「般若心経」を読んでいるんだけれどたまには別のお経も読んでみたい、というお話を聞きました。真摯な姿勢にこちらも頭が下がりますが、この手の話の続きは必ず頭を悩ませることになります。
「別のお経でオススメはありますか?」
「お経」がぜんぶでいったいいくつあるのか、それは誰にもわかりません。というのも、「お経」はお釈迦さまが四十数年間にわたって説法された内容を記録したものであるため、それだけでも大変な量になります。
こうすると何を読んだらいいのかさらに悩んでしまいますが、ひとつのヒントになるのが私たちの宗派である天台宗の高祖として尊崇される天台大師(てんだいだいし)智顗(ちぎ)さまのエピソードです。そのご生涯を讃えた「和讃」の一節を見てみましょう。
生年(しょうねん)七才(しちさい)なりし時 好んで寺に詣(もう)づれば
諸僧口に授けしに 普門品(ふもんぼん)をぞ以てせし
(天台大師が七才になった時、自分からお寺にお参りした。お寺の僧侶たちは口で唱えて、『法華経』観世音菩薩普門品を授けた)
『法華経』は大変に長いお経で、全部読むと数時間かかってしまいます。天台宗では『法華経』を重視することから、あらゆる場でお唱えする機会がありますが、観世音菩薩普門品はその一節で、観音さまの功徳を讃えることから寛永寺のさまざまな行事で広く読まれているお経です。
天台大師智顗さまが観音さまを深く信じた内容を、先ほど見た「和讃」の天台大師の臨終を述べる一節より見てみましょう。
観音来迎したまえば 浄土へ行くとぞ宣べたもう
(観音さまがお迎えにいらしたので、浄土に行くのだと天台大師はおっしゃった)
お経にもさまざまありますが、「般若心経」の次は「観世音菩薩普門品(観音経とも言います)」をお読みになってみてはいかがでしょうか。
中国で天台の教えを広められた天台大師智顗さま。11月24日のご命日には天台宗で広く法要が営まれます。