9月のおはなし ~寛永寺 その⑭~

前回に引き続き寛永寺のお堂を個別にご紹介していきます。
今回はパゴダと時鐘堂(じしょうどう)です。

上野公園のほぼ中央にある大仏山には、前回ご紹介した合格大仏のお顔のほかに、ドーム状の建物があります。
この建物は「パゴダ」といい、インド以東でつくられる仏塔(ストゥーパ)の一種です。
古来はお釈迦さまの遺骨などを安置するために作られた塔で、五重塔や塔婆の原型になったとされています。
このパゴダは、昭和42年に上野観光連盟の協力によって建立されたもので、内部には上野東照宮の薬師堂より遷座した薬師三尊像をお祀りしています。
この薬師如来さまは、立像(立っているお姿)で、御顔立ちがふっくらしており、とても優しげです。
そのおかげか、病気平癒を祈って足しげくお参りにいらっしゃる方も多く、また公園内かつ小山の上に位置しておりますので、参拝するまでが良い塩梅の運動になるのか皆さん足腰が御達者だそうです。
これもまた、お薬師さまのご利益なのでしょう。

さて、大仏山の向かいには「時の鐘(ときのかね)」とそれを吊るす「時鐘堂」があります。
この鐘は江戸時代中期の寛文九年(1669)、寛永寺及び周辺住民に時間を告げる、時報としての役目で設置されました。
現在の鐘は天明七年(1787)に改鋳されたもので、明治維新や太平洋戦争などで休止した時期はありましたが、今でも人の手で撞(つ)いています。
現在は朝夕6時と正午の一日三回、それぞれの時刻と同じ6打または12打が鳴るのですが、必ず最初に3打があり、その後一呼吸おいてから時刻に対応した回数が打たれます。
この最初の3打は「捨て鐘」と呼ばれ、これから時の鐘がなるから回数を間違えずによく聴くんだぞ~という合図として鳴らされているのです。

ちなみにこの「時の鐘」は「除夜の鐘」としても使われており、大みそかには多くの方々が順番に鐘を撞くのですが、その際には大事な決まりがあります。
それは前の人が撞いた余韻が、完全に消えてから次を撞くというものです。これを守らないと良い音が鳴らないばかりか、鐘が痛んでヒビ割れを誘発してしまうのです。

余談ですが、時の鐘の近くには「上野精養軒」「韻松亭」「伊豆栄梅川亭」といった飲食店があり、いずれも人気のお店です。ご利用の際には、大仏山でお参りされた後、正午や午後6時より少し早めにお店に入り、注文した品がくるのを待つ間、しずかに時の鐘の音に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

東叡山寛永寺 教化部